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東京地方裁判所 平成元年(ワ)15215号 判決 1991年1月25日

原告

藤原美代子

ほか二名

被告

石渡將史

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して、原告藤原美代子に対し一七九万〇六〇三円、原告藤原浩起及び同藤原靖幸に対し各七〇万二三三一円及びこれらに対する昭和六二年三月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告らの、その余を原告らの各負担とする。

四  この判決の一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して、原告藤原美代子に対し一七六一万六八六九円、原告藤原浩起に対し七六一万三九五三円、原告藤原靖幸に対し九二一万三九五三円及びこれらに対する昭和六二年三月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件事故の発生等(当事者間に争いがない)

1  被告石渡將史は、昭和六二年三月一七日午後八時三分ころ、東京都中央区日本橋人形町三丁目一〇番一〇号先道路(本件道路)において、普通乗用自動車(加害車)を運転中、前方不注視の過失により、同道路を横断中の亡藤原純(被害者 五八歳)に右普通乗用自動車を衝突させ(本件事故)、翌同月一八日、被害者を頭蓋内損傷により死亡するに至らしめた。

2  被告精巧印刷株式会社は、加害車を自己のため運行の用に供していた。

二  原告らの主張(損害)

1  被害者の逸失利益 三六〇六万九七六八円

被害者は、本件事故当時、呉服の卸問屋株式会社藤久の会長職の地位にあり、昭和五九年度の報酬は月額四〇万円であつたが、昭和六〇年度以降はこれを辞退し、昭和六二年初めころからは、鳥勝商事株式会社が展開しているフランチヤイズシステムの焼鳥店を経営すべく、銀行から融資を受ける話をまとめるなどその準備を進めていたところ、その矢先に本件事故に遭遇したものである。もし被害者が右フランチヤイズシステムの飲食店を経営しておれば、その標準店舗の月間純利益額五九万円を下らない利益を上げていたものと考えられる。そこで、その稼働可能期間を九年として、年五分の割合によるホフマン方式により計算すると、三六〇六万九七六八円(五九万円×一二月×〇・七×七・二七八)となる。

2  原告らの慰謝料 合計三三〇〇万円

原告藤原美代子につき 一五〇〇万円

原告藤原浩起につき 八〇〇万円

原告藤原靖幸につき 一〇〇〇万円

3  原告藤原美代子のその余の諸費用 合計四七〇万五〇八七円

(一) 病院費用 五〇万一七四七円

(二) 寝台自動車 一四万円

(三) 御霊棺(他諸経費) 一九万円

(四) 祭壇、霊柩車 五〇万七九〇〇円

(五) 石塔、墓石 二五六万円

(六) 寺院費用 六九万円

(七) 交通費 一一万五四四〇円

4  本件事故の発生については被害者にも二〇%の過失があつた。

5  原告藤原美代子は本件事故当時被害者の妻、原告藤原浩起及び同藤原靖幸は子であつた。

6  弁護士費用

原告藤原美代子につき 五〇万円

原告藤原浩起及び同藤原靖幸につき 各二五万円

7  受領額

原告藤原美代子 一三〇七万五一〇七円

原告藤原浩起及び同藤原靖幸 各六二五万円

8  残損害額

原告藤原美代子 一七六一万六八六九円((1÷二+2+3)×〇・八+6-7)

原告藤原浩起 七六一万三九五三円((1÷四+2)×〇・八+6-7)

原告藤原靖幸 九二一万三九五三円((1÷四+2)×〇・八+6-7)

三  被告の主張

1  過失相殺

本件事故の発生については、歩行者横断禁止と指定された本件道路を、夜間、雨の中、近くに横断歩道があるにもかかわらず横断していた被害者にも過失があり、その割合は六〇%を下らない。

2  損害額を争う。但し、病院費用は認める。

第三当裁判所の判断

一  本件事故の発生状況及び過失相殺について

1  証拠(甲四号証の一ないし一二、原告藤原浩起本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲五号証の一ないし八)によれば、本件事故の発生状況は次のとおりであると認められる。

被告石渡は、昭和六二年三月一七日午後八時三分ころ、加害車を運転して、一方通行と指定されている車道幅員約一四・二メートルの本件道路(水天宮通り 五車線 歩行者横断禁止)の第四車線を水天宮方面から小伝馬町方面に向け時速約五〇キロメートルで走行中、信号機により交通整理の行われていない交差点(本件交差点 交差道路の幅員約七・八メートル)に差しかかつた際、右交差点より一つ前方の交差点の信号に気をとられて一時前方左右に対する注視を欠いた過失により、折から本件交差点内の小伝馬町側の第三車線上を左から右に向けて小走りに横断中の被害者を前方約一五・一メートルの地点に発見し、危険を感じてブレーキをかけるとともにハンドルを右にきつたが及ばず、加害車の左前部を被害者に衝突させた。

一方、被害者は、本件事故現場付近の寿司店で事故当日の午後七時ころから八時ころまで清酒約一・四合を飲酒した後、付近の小料理店に向かうため、店を出て、本件交差点内を斜めに横断歩行中、右方に対する注意を欠いて小走りに横断していたため、加害車が走行してきているのに気づかず、加害車の進路前方に出たことから前記のとおり加害車に衝突されるに至つた。

本件事故当時は雨が降つていて、路面はぬれており、また、本件道路は歩行者の横断が禁止されていて、衝突地点より約三三メートル小伝馬町よりには横断歩道が設置されていた。

2  右事実によれば、被告石渡に前方不注視等の過失があつたことは明らかであるが、被害者においても、本件道路が歩行者横断禁止と指定されているのに横断しており、しかも本件道路は幅員が約一四・二メートル(五車線)の広い一方通行路で、かつ幹線道路であり、夜間とはいえ車両の通行はかなりあること、加えて、被害者の横断していた場所付近(約三三メートル左方)には信号機の設置された横断歩道があつたこと、本件事故当時は夜間で雨が降つており、その中を被害者は右方に対する注意を欠いたまま小走りに横断していたこと等の事情を考慮すると、本件事故発生については被害者にも落度があり、その割合は四〇%と認めるのが相当である。

二  損害額について

1  被害者の逸失利益 二三八八万二二〇八円

被害者は、本件事故当時五八歳であり、昭和四七年に設立した呉服の卸問屋株式会社藤久の代表取締役の地位を同五六年に退いてからは会長職の地位にあり、その報酬額は昭和五九年において月額四〇万円であつたが、同六〇年からはこれを辞退していたため収入はなかつた。本件事故当時、被害者は鳥勝商事株式会社が展開しているフランチヤイズシステムの焼鳥店を開店すべくその準備中であり、銀行からの融資の話もほぼまとまりかけていたが、店を出す場所を探していたため、実際の開店には至つていなかつた(原告藤原美代子本人及び同原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲八号証、弁論の全趣旨)。

右事実によれば、被害者の残存稼働可能期間は六七歳までの九年間、その間の平均収入額は月四〇万円、生活費控除率は三〇%として逸失利益を計算するのが相当と考えられるから、年五分のライプニツツ方式によりこれを計算すると、二三八八万二二〇八円(四〇万円×一二月×〇・七×七・一〇七八)となる。

なお、原告らは、被害者の収入額を月五九万円として計算すべきである旨主張するが、前認定のとおり被害者は未だ焼鳥店を開店してはいなかつたのであり、また、開店後に原告らが主張する程度の利益をあげ得たとも認めるに足る証拠はないのであるから、原告らの右主張は採用することができない。

2  原告ら固有の慰謝料 合計二二〇〇万円

本件事故の態様、被害者の年齢、家族関係、生活状況、本件事故後の示談交渉状況等の諸事情を総合考慮すると、原告らの精神的苦痛を慰謝するには、次の金額をもつてするのが相当である(なお、左記金額は、被害者自身の慰謝料が請求されないことを前提としている。)。

原告藤原美代子につき 一一〇〇万円

原告藤原浩起及び同藤原靖幸につき 各五五〇万円

3  原告藤原美代子のその余の損害 合計一五〇万一七四七円

(一) 病院費用 五〇万一七四七円

当事者間に争いがない。

(二) 葬儀関係費用 一〇〇万円

原告藤原美代子は被害者の葬儀関係費用(寝台自動車代、霊棺代(他諸経費)、祭壇・霊柩車代、石塔・墓石代、寺院費用、交通費)として相当額の支出をしたことが認められるけれども(原告藤原美代子本人及び同原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲三号証の一の一、二、同二の一、二、同三、同四の一、二)、被告らに請求できる金額はそのうち一〇〇万円と認める。

4  過失相殺による減額

四割の減額が行なわれる。

5  相続

甲一号証の一ないし三によれば、本件事故当時原告藤原美代子は被害者の妻、原告藤原浩起及び同藤原靖幸は子であつたことが認められる。したがつて、原告らの損害額は次のとおりとなる。

原告藤原美代子につき 一四六六万五七一〇円((1÷二+2+3)×〇・六)

原告藤原浩起及び同藤原靖幸につき 各六八八万二三三一円((1÷四+2)×〇・六)

6  填補 合計二五五七万五一〇七円

次の金額を受領したことは原告らの自認するところである。

原告藤原美代子 一三〇七万五一〇七円

原告藤原浩起及び同藤原靖幸 各六二五万円

7  残額 合計二八五万五二六五円

原告藤原美代子 一五九万〇六〇三円

原告藤原浩起及び同藤原靖幸 各六三万二三三一円

8  弁護士費用 合計三四万円

原告藤原美代子 二〇万円

原告藤原浩起及び同藤原靖幸 各七万円

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 原田敏章)

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